手塚治虫の名作、「アドルフに告ぐ」
舞台は第二次大戦下の日本、そしてドイツ。
3人のアドルフと、その周囲の人たちの生き様を描いたヒューマンドラマ。
終始作中に流れる重く暗い影は、戦争という悲惨な歴史を読者の心に刻みつける。
戦争が人の心を歪ませ、生じた歪みは家族や友情を無情にも引き裂いていく。
そんな中でも、強い信念を掲げて生きる登場人物たちの気丈な姿に胸を打たれる。
個人的に、手塚治虫の最高傑作なのではないかと思っている作品です。
アドルフに告ぐ 新装版 (文春文庫) コミック 全4巻完結セット (文春文庫)
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/02/01
- メディア: 文庫
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以下、作品のあらすじには極力触れずに感想を書きたいと思います。
非常に多くのテーマを含んだ作品
戦争、人種、民族、思想、家族、友情、愛、怨讐、栄光と挫折、歓喜と苦悩、そして生と死...
ともすれば消化不良になりそうなほど、重いテーマが詰め込まれていますが、そこはさすがの手塚治虫先生。軽妙なタッチでときにコミカルに、ときにシリアスに、絶妙なバランスでひとつの作品として昇華させています。
絡み合う運命の糸、出会いと別れ、伏線、そして回収
作中の人物は、中盤以降、ほとんど変わりません。
登場人物の顔ぶれは変わらずに、しかし、時代が確実に変化していく。
そして、忘れかけていたような人物がひょっこり現れたり、まさかと思う人同士が繋がったり、そして、突然の別れが訪れたり...
物語を構築する上で、各人物の役割が最初からきっちりと決められた上で、その構想をブレずに結末までなぞっていく。
言葉で言うのは容易いですが、実際にやってのけるのは大変です。
後世に語り継ぎたい作品
戦争が、いかに人を狂わせ、生活を壊していくのか。作者自身がその時代を生き延び、体験したからこそ書けるものがあると思います。
フィクションですので、もちろん、脚色や演出が加わっている部分はあるでしょう。それでもなお、実際に目で見て肌で感じたことを体験者が描いているのだから、後から資料を見て描くのとは違うリアリティがそこに存在するはずです。
僕自身も、戦争を知りません。重い口を開き、戦争の体験を語ってくれた祖母ももう他界しました。戦時中、各地で何が起こっていたのか、それを語れる人は残りわずかになっています。
そこから何を感じ、どう行動するのかは、未来を託された僕たちに与えられた課題なのだと思います。